きょうの16章は、モアブへの預言的哀歌と呼ばれるような内容です(ここでは哀歌とは死を悼む悲しみの歌です)。
モアブの王メシャは「羊を飼う者」として知られるほどで、モアブは牧畜が盛んでした。それで、「子羊をこの国の支配者に送れ」というアドバイスから始まっています。15章ですでに記されていたように、モアブに破滅の時が訪れました。イザヤは、逃げ場を失ったモアブの指導者に対して、ユダに避難場所を求めるように、あるいは、支援を求めるように、勧告しています。そのとき、「子羊」を贈り物として携えていくようにというのです。つまり、モアブは、敵対していた南ユダに助けを求めなければならない状況に追い込まれるというのです。「セラ」(1節)はエドム人の首都であり、モアブがエドム内に緊急避難していたのか、そのセラも破壊されるので、荒野を経て南ユダ王国のシオンに逃れるように勧めています(1,2節)。
3節と4節の解釈は、大きく二つにわかれます。ひとつは、モアブに対して南ユダに、モアブの窮状を訴えて、保護を求めるように勧めているという解釈です。もうひとつは、モアブに対して、南ユダの難民がモアブに逃れたときは、南ユダの民を安全に保護するように求めているという解釈です。判断が分かれるところです。5節は、イスラエルには、ダビデの王権を継ぐ方が、公正と正義と真実をもって統治される時が来るので、シオンこそ、まことの隠れ家となるという宣告です。
6節以降は、1節―5節までの勧告にもかかわらず、モアブは、それを受け入れないので、結局は滅びてしまうという預言です。その原因は、モアブの高ぶりでした。6節は、ヘブル語の原語では、「高ぶり」、「高慢」、「誇り」、「高ぶり」、「おごり」、「自慢」と6種類の別々のことばを用いて、いかに、モアブが、いわゆる高ぶりの罪を犯しているかを強調しています。それで、モアブの北部国境のヤゼルから、キル・ハレセテ、シブマなどのブドウの生産地まで、大木が切り倒されてしまうように、モアブは、完全に滅ぼされると預言されています。しかも、その預言の時が来ると、3年以内に、そのことが起こるというのです(14節)。イザヤは、幻を見て預言をするのですが、そのあまりの悲惨さに、内臓がちぎれるような深い痛みと悲しみで、この預言的哀歌を語っています(11節)。イザヤの苦悩と悲しみは、じつは、主なる神の苦悩と悲しみをも表しています。
ところで、この預言は南ユダの民に対して語ったモアブに関する預言です。つまり、主なる神は、モアブへの預言的哀歌を南ユダの民に語ることを通して、南ユダの民に対して、モアブのように高慢になることなく、主にのみ信頼するように求めているわけです。ところが、やがて、南ユダも、モアブのように高慢になり、主に対して背をむけることになります。そして、モアブと同様の運命をたどることになります。そして、また、主なる神は、このイザヤ書を通して、今日の私たちに対しても語っているわけです。これらの教訓を忘れてはいけないと言われるのです。
イザヤの預言者としての苦悩と悲しみから思い出されるのは、イエス様が、エルサレムをご覧になり、「ああエルサレム、エルサレム」と嘆き悲しみながら、その破滅を預言された御姿です。そうであれば、終末時代に住む私たちのメッセージ(あるいは、執り成しの祈り)もまた、居丈高に語るのではなく、苦悩と涙をもって語るべきメッセージであると思われます。
清宣教師
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