パウロは、いよいよ、カイザリヤでの2年間の監禁のあと、当時の文化や政治の中心であった世界の首都ローマに移送されることになりました。ローマ皇帝ネロのもとで、福音を証しするためでした。
27章1節で、再び、「私たち」という表現が出てきます。使徒の働きの著者ルカは、パウロが船旅でローマに移送されることを知り、パウロと同じ船旅を決意したようです。そのほかにも、テサロニケのマケドニア人のアリスタルコも同行しました。パウロを護送する責任者は、100人隊長のユリアスでした。これはアウグスト隊と呼ばれるローマ皇帝直属の部隊でした。その一部がカイザリヤに駐屯していたものと思われます。このユリアスは、パウロに対して、船旅を通して、好意的であったことが記されています。
カイザリヤから出帆した船はアジア州のトロアスの近くのアドラミテオを母港とする船でした。あまり大きな船ではなかったようです。それで、沿岸部を北上し、シドンに入港しました。シドンはエルサレムとアンテオケの中間に位置するので、パウロはしばしば、この町に立ち寄ったと考えられます。そこで、百人隊長ユリアスの好意で、パウロは、友人たちと交わりの機会が与えられました。シドンを出航し、キプロス島の北側を抜けて、キリキヤ地方、パンフリヤ地方の沿岸部を西へと航行し、ルキヤ地方の港、ミラに入港しました。ミラはアジアの南部の海岸にあり、古来、重要な港町でした。そこには、イタリヤ行きの船(おそらく、ローマ政府所有の船)が停泊していました。エジプトのアレキサンドリヤを母港とする船で、エジプトからの小麦など、たくさんの積み荷を乗せていました。さらに、276名のもの乗客を乗せることが出来るような大きな船でした。百人隊長のユリアスは、ここで、パウロたちや囚人たちを、この船にのりこませました。ミラを出航しましたが、なかなか船は進まず、アジア州の南西の端にあるクニドの沖から進むことが出来ずに、クレテ島の南の沿岸部を、強い風を避けて航行し、ようやく、「良い港」と呼ばれる所に着くことが出来ました。ここまでたどり着くのに日数を要してしまい、航海には適さない季節となっていました。そこで、パウロは、黙っていることができず、この航海が、いのちの危険をもたらすものとなることを警告しました。しかし、ユリアスは航海に慣れている船長や航海士の意見を尊重しました。また、多くの者が、冬を過ごすには不便なこの港を出て、クレテ島の西部にあるピクニスという有名な港で、冬を過ごしたいという意見が多勢を占めました。折からクレテ島の沿岸を西に航海するのにちょうどよい南風が吹いてきました。それで、好機とばかりに出航しました。しかし、途中で、ユーラクロン(北東風)がクレテの山から吹き降ろしてきたので、ピクニスに近づくことが出来ず、クレテ島の南にある小さな島(クラウダ)の南がわに入り、ようやく、船の後ろに引いて来た小舟を船体に引き揚げて、備え綱で船体に巻き付ける処置をすることが出来ました。浅瀬に乗り上げることを恐れて、船具をはずし、さらに、暴風に激しく翻弄されたので、船具まで捨てました。「太陽も星も見えない日が幾日か続き、激しい暴風が吹きまくるので、私たちが助かる最後の望みも今や絶たれようとしていた」(20節)と、ルカが記しています。実際に、パウロに同行したルカの実体験の証しです。そのような極度の不安と緊張の中で、パウロがみなを励まします。「今、お勧めします。元気を出しなさい。あなたがたのうち、いのちを失うものは一人もありません。失われるのはこの船だけです」。さらに、日数がたち、どこかの陸地に近づいたと思われる時、パウロは、一同に食事をとることを勧め、みずから、パンを取り、一同の前で神に感謝を捧げてから、それを裂いて食べました。みなは、そのことに元気づけられて、食事をしました。そのうち、船が浅瀬に乗り上げて、座礁して、後部から浸水が始まりました。そのとき、ローマの兵士たちは、囚人たちが逃亡するのを恐れて、囚人たちを殺してしまおうと提案しましたが、百人隊長のユリアスはそれを許さず、全員を助けました。こうして、船にいた全部で276人は、無事、上陸しました。
パウロのような信仰と証しが出来るひとになりたいです。
清宣教師
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