聖書には「章」と[節]がついていますが、聖書の原典には、章と節の区分はありません。旧約聖書はヘブル語、新約聖書はギリシア語で書かれています。原典は、それぞれの書が、1つのまとまったものとして執筆されました。いつごろ、章や節がつけられるようになったかといいますと、紀元後1227年ごろ、カンタベリーの大主教、スティーブン・ラントンが、聖書を章に区分したと言われています。それから約200年後に、1448年、ユダヤ人ラビのナタンが、旧約聖書に節を付け、1555年、ロベール・エティエンヌが新約聖書に節を付けました。ですから、聖書の章と節の区分は、一応、尊重しつつ、一人の人の考えに基づいたものですので絶対視しないことも大切です。例えば、創世記2章に入って、2章4節に「これは天と地が創造された時の経緯(記録)である」と記されていますが、これは「見出し」のようなものです。私たちの現代の文化では、最初の1章1節の前に来るものです。1章1節~2章3節の見出しになります。そうであれば、1章1節から2章3節までを、ひとつの章にした方が良かったとも考えられます。
ところで、創世記1章節~2章3節までの個所で、「神」ということばが33回も出てきます。聖書の中で、一番、「神」という名前が頻繁に登場する個所です。「神」とは、ヘブル語で、「エロヒム」です。一般的な名称で、もろもろの「神」を表現するのに用います。「エロヒム」は複数形ですが、一般に、尊厳を表す複数形と言われています。どういうことかといいますと、当時、王とか偉大な統治者は、自分のことを「われわれ」という複数形で表現していたからです。ところで、ここで用いられている動詞の「創造した」は単数形であり、主語が単数形であることを示しています。ですから、文法上はありえないのですが、あえて、聖書は、このような表現をしています。それで、最近は、この箇所は、三位一体の神を表すと理解されています。
さて、創世記2章4節~4章26節までが、ひとつの見出しのもとに記されています。つまり、5章1節に奥付されている「これはアダムの歴史の記録である」ということになります。アダムの歴史の記録とは、2章4節~4章26節の見出しです(この例を見ても、章の分け方があまり適切でないことが分ります)。
ところで、2章4節からは、「神」という表現が、「神である主」という表現に代わります。2章4節~3章23節までで、「神である主」「神である主」「神である主」と、くどいほど、繰り返されています。20回も繰り返されています。つまり、一般的な名称である「神」ということばを用いましたが、それは、「主」のことである、と強調しているのです。「主」とは、ヘブル語で「アドナイ」と言いますが、実際には、そこには、「主」ということばではなく、ヘブル語で、「YHWH」の4文字が記されています。つまり、お名前が記されています。固有名詞です。ただ、おひとりの名前です。
最初から、お名前を出しても分らないので、「神」という名前で紹介してから、それは、「YHWH」という唯一のお方であることを明らかにするのです。特定のただ一人の神のことを指しているのです。しかし、ユダヤ人にとって、神のお名前を直接、文字として書き記すのは恐れ多いことなので「主」という文字で置き換えたのです。日本語の聖書では、「主」という字が太字になっています。そこには、本来、「YHWH」というお名前が記されているのです。
4章に入ると、もう、「神である主」「神である主」という繰り返しは止めて、単に、「主」ということばを用いています。もちろん、そのあとも、「神」という名称も、文脈に応じて用いられています。ヘブル語の「YHWH」をどのように音読するかは、学者によって異なります。「エホバ」とか、「ヤハウェ」とか、候補があげられていますが、厳密には断定できません。
なお、大事なことですが、2章4節後半から2章14節は、1章の創造の6日間の要約です。一本の野の灌木も、一本の野の草もなかったとは、1章2節の「地は茫漠として何もなかった」という事柄のへブル的な表現です。2章15節から25節は、さらに、創造の6日目の出来事を詳述したものです。そのことを理解しないと、2章は、1章とは別の物語であるとか、1章と2章の間には矛盾がある、という批評によって、聖書のみことばに対する信頼を失うことになります。そうではなく、これは1章の出来事を繰り返したもの、詳述したものです。そのカギは、2章4節の「これは天と地が創造された時の経緯である」という表現と、それに続く「神である主が地と天を造られたとき」という表現に見ることが出来ます。1章1節~2章3節は、創造主なる神の記録です。誰も、これに立ち会った人はいません。それで、天の視点から、「天と地を創造された」(1章1節)で始まり、「天と地が創造された時の経緯である」(2章4節前半)で閉じられています。しかし、2章4節後半以降は、「地と天を造られた時」という「地」の視点から記されています。「地」こそ、アダムとエバを始めとする全人類の住みかです。この視点から、2章は、創造の出来事を振り返り、詳述しています。例えば、1章27節で、「男と女とに創造された」と記されていますが、その具体的な内容が、2章18節~24節に記されています。
2章24節は、創世記の編集者であるモーセが、アダムとエバの結婚を、一般の結婚の原則として普遍化したもので、モーセが編集する時に書き加えたものと考えられます。アダムもエバも、赤ちゃんとしてではなく、経済的にも、精神的にも、肉体的にも成熟したものとして存在しておりました。その二人が結婚へと導かれたのです。そこから引き出される原則が、両親から経済的にも、精神的にも自立した男性が、妻と結婚するというものです。
神のかたちに造られた私たちです。きょうも、笑顔で生活しましょう。
清宣教師
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