「ヤコブは旅を続けて、東の人々の国へ行った。」(1節)と記されています。おそらく、東の国への旅は生まれて初めてだったのでしょう。数十年前のこと、アブラハムのしもべが、同じ道を通りましたが、その時の様子とはまったく違いました。あの時は、アブラハムの所有のラクダの中から、えりすぐりの10頭のラクダを選び、その背には貴重な財産を満載しての花嫁さがしでした(24章10節参照)。一方、今回の旅では、そのような記述はまったくありません。ヤコブは、財産らしきものは何も持たず、必要な物だけをもっての旅だったと思われます。母の実家とはいえ、財産なしでは招かれざる客になる恐れがありました。しかし、主の励ましによって力を得て、ようやく、カランの近くの野に到着することが出来たのでした。ヤコブは、長旅の後、井戸のかたわらで、ラバンの娘ラケルに出会いました。ヤコブは、井戸のかたわらで順番を待っている他の羊飼いたちを差し置いて、井戸の口の石を転がして、ラバンの羊の群れに水を飲ませました。また、ラケルに口づけして声を上げて泣きました。「声を上げて泣いた」ということは、よほど、寂しかったのでしょう。なにか、大人というよりも、少年らしさを感じさせますね。さて、ラケルは走って自分の家に帰り、自分の父親であるラバンに告げました。すると、ラバンもまた走ってきてヤコブを抱いて口づけしました。妹リべカの息子ということで、大きな喜びだったようです。そして、すべての事情をヤコブから聞きました。1か月してから、ラバンは、ヤコブに働き口を世話しようと言い出します。それに対して、ヤコブは、娘ラケルとの結婚の希望を申し出て、結納の代わりに7年間の無償での労働を申し出ました。この提案はラケルの父親のラバンに受け入れられました。そうして、7年間が過ぎました。ヤコブにとっては「彼女を愛していたので、それもほんの数日のように思えた。」(20節参照)と記されています。この箇所を読んだとき、みなさんの心の反応はどうでしたか?心の中がほんのり温かくなりましたか?さて、結婚の祝宴も終わり、初夜を迎えました。花嫁は顔をベールで覆い、夜のともし火も薄暗く、ヤコブは、念願がかなってラケルと一緒になれるので、ただ、夢中でした。しかし、朝になって、驚きました。隣に眠っていたのはラケルではなく、ラケルの姉のレアだったのです。最初は、事情が分らなかったと思います。それで、ラケルの父親のラバンに対して猛然と抗議を申し込みます。「わたしをだました」と、ラバンをなじりました。ラバンは平然と、私たちのところの風習では、姉を差し置いて妹を先に結婚させることはありえないのだと言い放ちました。あらかじめ、父ラバンが仕組んで、姉のレアを言いくるめて、ヤコブが見えないことを利用して、騙したのです。まさに、ヤコブが、母親のリべカに言いくるめられて、目のみえない父親のイサクを騙して、兄のエサウになりすまして、祝福を奪ったと同じようなことが再現されたのです。ラバンは、あらかじめ計画していたように、妹のラケルと結婚させるから、あと7年、無償で労働するようにヤコブに言い渡しました。落ち着いて考えたとき、ヤコブは、ラバンに対して何も言い返すことができなかったと思います。ヤコブはその提案をうけいれざるを得ませんでした。しかし、レアもまた、自分が蒔いた種を刈り取ることになります。父親のラバンの指図とはいえ、ヤコブを騙したことにより、生涯、ヤコブから嫌われました。そして、ヤコブは妹のラケルを愛したのです。しかし、神様は、憐み深いお方です。「主はレアが嫌われているのをご覧になって、彼女の胎を開かれた」(31節)と記されています。レアは、ヤコブの子をもうけました。まず、長子ルベン、ついで、シメオン、ついで、レビ、そしてユダでした。そのあとは、レアは子を産まなくなりました。主はラケルの事も配慮されたのだと思われます。さて、ヤコブは自分が騙されて初めて騙されることがどんなに嫌なことかを身をもって体験しました。私たちの社会では、「おれおれ詐欺」や「悪徳商法」が、はびこるようになりました。これ以上、被害者が増えないように、共にお祈りしたいと思います。

清宣教師