王宮内の未婚の男女の関係は、厳しく制限されていたようです。お互いに会うには、王の許可が必要でした(13章13節参照)。一方、王宮内には、未婚の王子や王女が多数いました。父親はダビデですが、母親は異なる息子、娘たちでした。そのような環境の中で、恋愛が芽生えたことが描写されています。自由に会うことが出来ない環境が、むしろ、不健全な感情を育てていたとも推測されます。王位継承の第1位のアムノン王子が、ダビデの子の妹タマルに恋心をいだきました。そのため、アムノンが苦しんでいると知った悪友ヨナダブがアムノンに悪巧みを提案しました。それはアムノンが仮病を使って、王を騙して、タマルに病人食を作って欲しいと願い出たのです。当然、第1皇子の病気を心配する父ダビデは、タマルに使いをやって、義兄のアムノンのもとへ行き、病人食を作ってやってほしいと命じました。タマルは、義兄のアムノン王子の悪巧みを知らずに、義兄のために、病人食を作り、さらに、寝室まで持参しました。そのとき、アムノンがタマルをつかまえて、力ずくで凌辱しようとしました。そこで、タマルは、「いけません。兄上。乱暴してはいけません。イスラエルでは。こんなことはしません。こんな愚かなことをしないで下さい」と、きっぱり断りました。そして、「王にお話し下さい。きっと王があなたに会わせて下さいます」と訴えました。タマルは、若いのに高い倫理観と分別を備えた素晴らしい女性であることが分ります。おそらく、そのような人柄は、王宮内でもよい評判となっていたと思われます。ところが、アムノンは、理性を失い、情欲のおもむくまま行動してしまいました。しかし、欲望を果たしたあとに残ったものは満足ではなく、激しい憎しみでした。その裏には罪を犯してしまった、激しい自己嫌悪があったのかもしれません。アムノンは、タマルを追い出そうとします。それに対して、タマルは、王にお話しするように、そうすれば、きっと良い解決があるに違いないと言いました。もし、自分を追い出せば、アムノンの罪は決定的なものとなってしまうことをタマルは恐れたのです。それは、アムノンの将来を思ってのアドバイスでした。しかし、アムノンは、それを拒否して、タマルを追い出しました。そのあと、ダビデはこの出来事を知って、激しく怒りましたが、結局、なにもしませんでした。どうやら、かつて自分が犯したバテシバとの不品行の罪のゆえに、アムノンに対して明確な処罰をくだすことが出来なかったようです。一方、タマルの兄のアブシャロムも沈黙を守り通しました。アムノンも沈黙を通しました。結局、何事もなかったかのように、2年が過ぎました。ただひとり、高い倫理観と分別を備えた素晴らしい女性だけが犠牲を強いられたかたちとなりました。このことが、あとの兄弟同士の殺戮へと発展するのです。ダビデがアムノンの所業に対して見て見ぬふりをしたことが、原因でした。アブシャロムは、用意周到な計画を立てて、2年後に、妹タマルを恥ずかしめたことに対する報復として、アムノンを殺害したのです。そのあと、アブシャロムは、国外へ逃亡しました。母親の実家にのがれて身をひそめていたようです。ダビデ王は、アムノンのことを悲しみ、一方では、この事件に対して、責任を放棄してしまった自分、アブシャロムへの同情もあったようです。しかし、3年も過ぎるうちに、アブシャロムに対する敵意だけが残ったようです。
今日の個所から、罪に対して好い加減に放置しておくと、それが取り返しのつかない事態(ここでは殺人)をもたらす恐れがあることを指摘していると思われます。、また、ダビデの優柔不断、倫理観の欠如に対して、タマルの高い倫理観と分別が際立って対照的に描かれています。タマルは、人々の間では無視されましたが、主の前では高くあげられる人でした。クリスチャンとは、タマルのような高い倫理観と分別を備えた人なのです。
清宣教師
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