さて、フシャイの提案にアブシャロムたちがのって来たので、ダビデたちには時間的な余裕が生じました。ダビデは民たちを集めて、組織的に兵士たちを整えました。そして千人隊、百人隊の隊長を任命しました。さらに、全軍を3隊に分けて、それぞれ、ヨアブ、アビシャイ、イタイの3人の長を任命しました。総司令官として、ダビデも出陣しようとしましたが、民たちはそれを必死でとどめました。さて、彼らが出陣するときに、ダビデはとくに隊長たちに対して、アブシャロムのいのちだけは助けるように命じました。その日、エフライムの森で戦闘が繰り広げられました。アブシャロムは、美男子であり、とくに、長い髪が自慢だったようです。戦場においても、その髪をまとめることもせず、愚かにも長髪が仇となり、木の枝にひっかかりました。アブシャロムが乗っていた騾馬はそのまま行ってしまったので、アブシャロムは、木の枝に宙吊りとなり、どうすることも出来ません。イスラエルの全軍の総司令官としては、滑稽で、戦いを知らない素人であることをあらわにしてしまいました。それを家来から聞いたヨアブは、迷わずに、アブシャロムを処刑しました。かつて、アブシャロムを王宮に戻すことに手を貸したヨアブとしては、やはり、恩を仇で返されたと思ったのかも知れません。百戦錬磨のヨアブにとって、アブシャロムの姿は、総司令官としてなんとも無知な恥ずべき姿として映ったに違いありません。平和なときは、容姿も役に立ちますが、戦場では役に立ちません。おそらく、そのような素人としてのアブシャロムの有様が、また、こどものような幼稚さが、父親としてのダビデの情を呼び覚ましたのかも知れません。ダビデは、アブシャロムの死を知って、人前をはばからず泣き、「わが子、アブシャロム、わが子、アブシャロム、ああ、私がお前に代わって死ねば良かったのに」と言って、喪に服したのでした。
一方、ヨアブはこのようなダビデの弱さを知っていたので、アブシャロムを迷わずに処刑したものと推測されます。アブシャロムがダビデの温情で赦されるようなことがあれば、再び、謀反の芽となることを知っていたのです。それにしても、ダビデは、総司令官としての立場を忘れてしまったようです。どうしても、権力を握ると、公私混同してしまう恐れがあります。情があることは人々から理解されますが、善悪の判断を無視するようなものである場合は、むしろ、反発を買うものとなってしまいます。ヨアブはそのことを良く知っているので、次の章で、ダビデに対して、総司令官としてのダビデのあるべき姿を進言します。
今日の個所から教えらえたことは、逆境の中で、落ち着いて行動することです。「落ち着いて主に信頼するなら、あなたがたは力を得る」と約束されている通りです。ダビデは与えられた短い時間で、物事を整理して、組織を建て直しました。それから、もうひとつあります。常日頃から、指導者の信条と行動が一致していないと、本心はどこにあるのか、心を読まれることになります。忖度(そんたく)ということばが流行したことがありますが、指導者の本心はどこにあるのか、部下が推測することになります。ヨアブは、ダビデがアブシャロムのいのちを助けるように命じましたが、その本心はアブシャロムの死を願っているのではないかと推察し、本心(忖度)に従おうとしたのかも知れません。これらの発端は、バテシバ事件でした。この事件さえなければ、家族の中での分裂も、ダビデの本心を読もうとする部下たちもいなかったのでしょう。残念ですが、他の王国の宮廷内の骨肉の争いと同じような体質が生れてきたのです。信条と行動が一致する人生を目指して、ともに祈りましょう。
清宣教師
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