ここからはパウロの弁明が続きます。まず22章は民衆に対する弁明、23章はローマの総督に対する弁明、24章はアグリッパ王に対する弁明となっています。
さて、22章におけるパウロの弁明は、2節~5節がパウロの生い立ち、6節~16節がキリストとの出会い、17節~21節が異邦人宣教への召しとなっています。つまり、①キリストを信じる前の私、②キリストとの出会い、③キリストを信じた後の私、という展開になっています。私たちの証と同じですね。ここでは以前は知らされていなかったパウロの生い立ちについて知ることが出来ます。タルソで生まれ、律法の学問を修めるため名門ガマリエル門下で学びました。目の前の民衆たちと同様に律法に対して熱心であったことを強調し、しかも、「この道」つまり、キリスト信者を迫害するほど、ユダヤ教の神に対して熱心であったことを伝えました。しかも、当時の大祭司や議会のお墨付きで国外のダマスコの町までキリスト信者を捕縛する権限をゆだねられるほど、ユダヤ教に熱心なものでした。ところが、ダマスコへの途上で、超自然的な体験をしました。キリスト・イエスとの出会いでした。主との出会いは、その栄光のために目が見えなくなり、随伴者に手をひかれてダマスコの町にはいる有様でした。そこで、主から遣わされた律法を重んじるアナニヤという人物が訪ねてきて、主からのメッセージを伝えてくれたのです。「兄弟サウロ、見えるようになりなさい」と宣言しました。すると、目が見えるようになりました。9章18節では、パウロはそれは目から鱗(うろこ)が落ちたと表現しています。いわゆる「目から鱗(うろこ)」の格言がそこから由来しています。さらにアナニヤは、「イエスの御名によってバプテスマを受け、自分の罪を洗い流していただきなさい」と言いました。そのような超自然的なイエスとの体験を通してのち、エルサレムに帰って宮で祈っていました。すると、その祈りの中で主の幻を見ました。そして、「行きなさい。わたしはあなたを遠く、異邦人に遣わす」という召命を受けたのです。このように、弁明しました。するとそこまで静かにパウロの証を聞いていた民衆が、急にいきりたち、こんな男は生かしておくべきではない、と騒ぎ立てて、パウロを殺そうとするような険悪な状況に陥りました。それで、百人隊長はパウロを兵営の中に引き入れて、パウロをムチ打ち、取り調べを行おうとしました。そこで、新たな事実が明かされました。パウロは、自分は生まれながらのローマ市民である、という身分を明かしました。それで、このことはすぐに、千人隊長に報告が行きました。それで千人隊長がみずから、パウロに真偽を尋ねました。そこで、ローマ市民であることが確認されると、取り調べの兵士たちが身を引きました。当時、ローマ市民権というのは、とても大きな特権でした。今の国会議員の特権よりも手厚い保護がなされるべき特権でした。千人隊長は自分の手には負えない事件であることを認識したようで、翌日、ユダヤ人のサンヘドリン(70人の議員からなる国会)での審議に委ねることにしました。
パウロが普通は行使しなかったローマ市民権を行使したのには理由がありました。パウロはローマでの証しを最終目標としていました。しかし、ユダヤ人の宗教指導者である祭司長の思惑や、ローマの千人隊長の思惑などがあり、最終目標を果たすことなく、パウロが処刑される危険があったからです。私たちも、時には主の宣教のために、社会的な地位や特権を行使することも必要です。リトアニアの領事であった杉原千畝が特権を行使して6000人のユダヤ人のいのちを救ったという事例があります。そのために、杉原千畝はこの世では不遇の人生を送りましたが、天国において豊かな報いを受けたに違いありません。
主はあらゆる方法で、私たちに語り、私たちを導かれるお方です!
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